RESSACA

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放映:2021年3月05日 NHK Eテレ / 49分
https://www.nhk.jp/p/docland/ts/KZGVPVRXZN/episode/te/6N3JG11GR9/

制作:2018年 フランス・ブラジル Babel Doc
録画

2020年国際エミー賞アート番組部門受賞のドキュメンタリーがNHK Eテレで放映されました。2017年リオデジャネイロ市立劇場が経済危機のあおりで閉鎖の危機に陥る中で存続をかけて闘った500人のスタッフたちを追ったドキュメンタリー。


クレジット

ディレクター:ヴァンサン・ランボー Vincent Rimbaux/ パトリツィア・ランディ Patrizia Landi
撮影:ヴァンサン・ランボー Vincent Rimbaux/ セバスチャン・ダゲレサー Sébastien Daguerressar
編集:ステファニー・ルブラン Stéphanie Lebrun
プロデューサー:ステファニー・ルブラン Stéphanie Lebrun / トーマス・エリス Thomas Ellis / セバスチャン・ダゲレサー Sébastien Daguerressar

出演:
マルシア・ジャクリン Marcia Jaqueline, バレエダンサー / フィリペ・モレイラ Filipe Moreira, バレエダンサー / ジョアン・バティスタ Juan Batista, 案内係 ほか

感想

89分のバージョンもあるみたいですが、NHKで放送されたのは49分のものでした。

踊り続けるために移籍を決意したプリマバレリーナのマルシア、事態の好転を願いながら家族と暮らすダンサーのフィリペ、そして長年劇場で案内係をつとめてきたジョアン。この3人の想いと、存続のために奮闘する劇場の人たちや緊迫感を増していく市中の様子、状況を伝える報道などから伺い知れるのは非常に重いものでした。

何ヶ月もの間給料の支払いが滞り、リオ市民からの寄付金や食料寄贈でようやくバレエ団創立80周年記念の『カルミナ・ブラーナ』を上演したものの、レギュラーの公演存続は難しく、逆に「上演するより閉鎖した方が安上がり」と上層部が方針を打ち出してしまう。現職大統領の汚職による刑事訴追、市民による暴動、そして軍による治安介入と状況は混迷を極める中、劇場に勤める人たちは存続へ向けた活動を続けています。

マルシアは惜しまれながらザルツブルク州立劇場へ移籍。現地でも評判がよいようです。彼女に新聞の公演評を読んであげている夫は一緒に移籍したピアニストの方みたいですね。休みなく踊り続けて疲労がたまる中、『シンデレラ』のソロで転倒する様子が写って心臓がとまるかと思いました。公演後のレヴェランスが映っていたので最後まで踊りきったのだろうとは思うのですが、舞台袖で椅子に腰掛けて涙ぐむ様子もあったので気になります。ロングバージョンならその顛末も入っているのかしら。なお、検索したところ、現在はまたリオのプリンシパルに戻ったのかな?ザルツブルクはゲストプリンシパルになっているように見えました(でもよくわからない)。

男性ダンサーのフェリペはお金さえ入ればまた元に戻ると信じてやっていましたが、ドキュメンタリーの後半ではお金のためにドライバーとして働く姿も映っていました。バレエのために人生を捧げてきたのにこのような状況になり、妻ともしっくりいかなくなってしまった、と。お子さんと裸足でサッカーする姿にはハラハラしました。さすがリオっ子とは思うけれど、大丈夫なものなのでしょうかね、つま先……。

そして案内係のジョアン。経済的に一番深刻なのは彼です。もうかなりの高齢なのに孫にお金をせびられるからと、塗装などの細々した仕事で現金を稼がないとやっていけないのです。街には麻薬の売人たちがウロウロしていて、お金を渡さなければ孫も売人になってしまうだろう、と。

その孫もとっくに成人しているような感じに見えて驚いたのですが仕事がなく、ジョアンは彼に手に職をつけろと言って聞かせます。孫によれば彼の父は強盗事件に巻き込まれて死んだとのことで、彼もある意味では被害者なのですよね。ジョアンと一緒に劇場らしき場所でスーツに着替える孫の様子があったので、もしかしたら息子も劇場で働くことになったのかしら。特に説明もなかったし一瞬のことだったので分かりませんが。しかしジョアンには衝撃的な結末が待っていました……。つらい。

ドキュメンタリーは、2018年10月、元軍人のジャイル・ボルソナロがブラジルの新しい大統領に選出された、というテロップで締めくくられます。その後にはコロナ禍もやってくるわけで、本当に胸の痛いドキュメントでした。自ずと日本の現状にも重ねて見てしまいます。芸術を軽視する政府と五輪後の不景気にコロナ禍が重なっているわけですから。

全編モノクロの映像は、生々しさが減る一方で脳が色々な情報を勝手に補完するのか、強い印象を残しました。