Swan Lake / The Royal Ballet, 2020
改定振付・演出:リアム・スカーレット
出演:高田茜、フェデリコ・ボネッリ ほか
収録:2020年3月6,10日 英国ロイヤル・オペラハウス / 141分
録画
NHKプレミアムシアターで録画。ずっと8Kチャンネルでしか放映されていなかった茜さん主演の「白鳥の湖」がようやくプレミアムシアターへ。放映予定の方が先に決まっていたものの、結果的に先日亡くなったリアム・スカーレットの追悼番組になってしまいました。
クレジット
- 振付・演出
- リアム・スカーレット Liam Scarlett
- 原振付
- マリウス・プティパ Marius Petipa
レフ・イワーノフ Lev Ivanov - 追加振付
- フレデリック・アシュトン Frederick Ashton
- 音楽
- P.I. チャイコフスキー Pyotr Il’yich Tchaikovsky
- 美術
- ジョン・マクファーレン John Macfarlane
- 照明
- デイヴィッド・フィン David Finn
- 指揮
- コーエン・ケッセルス Koen Kessels
- 演奏
- 英国ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団 Orchestra of the Royal Opera House
キャスト
オデット/オディール:高田茜 Akane Takada
ジークフリート王子:フェデリコ・ボネッリ Federico Bonelli
王妃:クリステン・マクナリー Kristen McNally
ロットバルト:トーマス・ホワイトヘッド Thomas Whitehead
ベンノ:ジェームズ・ヘイ James Hay
ジークフリート王子の妹たち:アンナ・ローズ・オサリヴァン Anna Rose O’Sullivan / チェ・ユフィ Yuhui Choe
第2幕 / 第4幕
小さな4羽の白鳥:イザベラ・ガスパリーニ Isabella Gasparini / ミーガン・グレイス・ヒンキス Meaghan Grace Hinkis / ロマニー・パジャック Romany Pajdak / ソフィー・オールナット Sophie Allnatt
2羽の白鳥:メリッサ・ハミルトン Melissa Hamilton / イツァール・メンディザバル Itziar Mendizabal
第3幕
スペインの王女:アネット・ブヴォリ Annette Buvoli
ハンガリーの王女:金子扶生 Fumi Kaneko
イタリアの王女:ミーガン・グレイス・ヒンキス Meaghan Grace Hinkis
ポーランドの王女:クレア・カルヴァート Claire Calvert
スペインの踊り:Gina Storm-Jensen / Erico Montes / Benjamin Ella / David Donnelly / Téo Dubreuil
チャルダッシュ:Leticia Stock / Kevin Emerton
ナポリの踊り:Mayara Magri / Luca Acri
感想
8Kではなんども放映されているNHK独自の撮影映像で、はやく2Kで放映してほしいと首を長くして待っていました。ダウンコンバートでも十分美しいです。思えば「白鳥の湖」を(映像でも)見るのは久しぶりで、なんだか染み入るように見入ってしまったのでした。茜さんとボネッリの組み合わせは、市販されている初演時のヌニェス/ムンタギロフとはまた違った深みのある組み合わせ。今後も可能ならばたくさんの組み合わせでこの作品を見ていきたいです。たぶんロイヤル・バレエはそう簡単にこのプロダクションをお蔵入りにはしないだろうと思うのですけれど……。
フェデの王子は、女王に「妻を迎えなさい」と言われた瞬間、世界が一変してしまったように見えました。まるで恐怖にとらわれているかのよう。ここまで思い詰めて湖に向かう王子、他にはマシュー・ボーン版くらいしか見たことがない気がします。今まで見てきた王子たちも現実逃避で湖に行くわけですが、フェデの場合はさらに切実というか自己暗示をかけているかの如く。そういう精神状態だからこそ、白鳥から人間の姿に戻った美しいひとに心奪われてしまったのかも、と多く「白鳥の湖」を見てきた中で初めて思いました。そんな混乱した状態でも、初めてオデットの手を取った時に、ちゃんと相手が嫌がっていないのを確認してから腰に手を添えるのが流石イタリアンだと思ってしまった(笑)。踊りの盤石さも変わらず、頼れるパートナー。
対する茜さんのオデットも、何かから逃げ出すかのように全速力で舞台に走り込んできます。彼女は白鳥たちの女王でありつつも孤高の存在で、二人のそんなところが共鳴したのだ、ということも伝わりました。「この湖は私の母の涙で……」のマイム、いつもどうしてそんなに一気にまくし立てるんだろうって不思議だったのだけど、茜さんのそれは話し始めたら最後まで聞いてもらわずにはいられなかったのかな、とこちらも初めて思いました。日本人のメンタリティとして共感しやすいのかもしれません、けれど。つま先も美しく語っていたし、羽ばたきには強い意志が感じられて、茜さんらしく美しいオデットでした。
ロットバルトはトーマス・ホワイトヘッド。ギャリーさんの禍々しさに対して、冷酷さの際立つ役作りでした。リアム版のロットバルトは権力が欲しいとか王家に対する恨みを晴らす的なものより、実は純粋にティアラコレクター?って感じがありますよね。もちろんティアラは王家=権力の象徴ではあるのだけど。リアムにはそこのところをもう少し深く改訂していってほしかったのに……。
忘れてはならない、というか忘れようにも忘れられないのがジェームズ・ヘイくんのベンノの素晴らしさ。彼の踊りの美しさは比類がありません。本当に大好き。役柄としても、王子のことを気遣う様子、夜の湖が怖くて仕方ないのに王子に寄り添う様子、それでも王子との間には超えられない壁があるのが分かっていること、舞踏会での立ち回り具合などなど、彼がいることでこの舞台がどれだけ豊かになっていることか。
アナ・ローズとユフィさんの王子の妹たちもゴージャスでした。ユフィさんのアームスが紡ぐ暖かい空気がとても好き。扶生さんはハンガリーの王女役、艶やかでした。ルカくんはナポリの踊りをマヤラ・マグリと一緒に。この二人の組み合わせはとても好き。新しい白鳥の名物ナポリペアにと期待したいけど、マヤラがプリンシパルになってナポリに配役される機会は減るでしょうか。ラウラはプリンシパルになっても踊っていたけれど。
普段収録にはキャストされにくい若手が多いのも、見ていて楽しかったです。プロローグ、白鳥になる前のオデットは前田紗江さんでしたよね。彼女は1幕でも王子と踊ってロットバルトに睨まれたりと目立つところに配置されていました。中尾太亮さんは1幕で軍服姿。大勢で踊っていても目に止まる柔らかくつま先の美しい踊りでした。当時スクール生だった五十嵐大地さんは同じくデニソン・アルメイダと一緒に立ち役で登場していましたよね。佐々木須弥奈さんも白鳥の群舞に。
NHK独自映像ということで、いつものロイヤル・バレエ映像のエンドクレジットがなく、NHKのクレジットでは1幕のワルツ/ポロネーズと3幕の民族舞踊が漏れていました。見たところマズルカのニコル・エドモンズのパートナーだけがわからなかった……。マディソン・ベイリーかしら?と思ったのですが、よくわかりません。どなたか詳しい方、教えていただけたら嬉しいです。