Victoria / Northern Ballet

ノーザン・バレエ《ヴィクトリア》[DVD]

振付:キャシー・マーストン
出演:アビゲイル・プルディムズ、ジョセフ・テイラー、ピッパ・ムーア ほか
収録:2019年3月27,29日 サドラーズ・ウェルズ劇場(ロンドン) / 本編115分 + 特典映像8分

画像リンク先:amazon.co.jp - 国内仕様DVD

キャシー・マーストン振付のノーザン・バレエ「ヴィクトリア」がNHKプレミアムシアターで放映されました。意欲作の多いノーザン・バレエ、あれもこれも見たい作品ばかりなのに機会が少ないので、これは喜ばしい。DVD/Blu-rayも3月末に発売になっています。


商品情報

特典映像:『ヴィクトリア』のできるまで / キャスト・ギャラリー (特典映像字幕:日、英・仏・独・韓)

海外|DVD(Opus Arte:OA1299D)

FORMAT:NTSC / REGION:0

[国内仕様盤] Release: 2020/03/27

[海外盤] Release: 2020/03/20

海外|Blu-ray(Opus Arte:OABD7264D)

[国内仕様盤] Release: 2020/03/20

[海外盤] Release: 2020/03/20

クレジット

音楽
フィリップ・フィーニー Philip Feeney
振付・演出・台本
キャシー・マーストン Cathy Marston
装置・衣裳
ステフェン・アーフィング Steffen Aarfing
照明
アラステア・ウエスト Alastair West
ドラマトゥルク・台本
Uzma Hameed
指揮
ジョナサン・ロー Jonathan Lo
演奏
ノーザン・バレエ・シンフォニア Northern Ballet Sinfonia
映像
ロス・マクギボン Ross MacGibbon

キャスト

ヴィクトリア(大英帝国女王):アビゲイル・プルディムズ Abigail Prudames
アルバート(ヴィクトリアの夫):ジョセフ・テイラー Joseph Taylor
ベアトリス王女(ヴィクトリアの末娘):ピッパ・ムーア Pippa Moore
若いころのベアトリス王女:芥実季 Mika Akuta
ジョン・ブラウン(ヴィクトリアの使用人):ムリンディ・クラシェ Mlindie Kulashe
リコ(ベアトリス王女の夫):ショーン・ベイツ Sean Bates
ベンジャミン・ディズレイリ:フィリッポ・ディ・ヴィリオ Filippo Di Vilio
メルバーン卿(首相):伊藤陸久 Riku Ito
ウィリアム・グラッドストン/レオポルド:ギャヴィン・マッケイグ Gavin McCaig
ヴィクトワール(ケント公爵夫人、ヴィクトリア女王の母):ミンジュ・カン Minju Kang
コンロイ:マシュー・トプリス Matthew Topliss
Abigail Cockrell / Nicola Gervasi / Rachael Gillespie / Jonathan Hanks / Ommaira Kanga Perez / Natalia Kerner / Matthew Koon / Dominique Larose / Harriet Marden / Ayami Miyata / Kevin Poeung / Nina Queiroz da Silva / Mariana Rodrigues / Andrew Tomlinson

# キャスト名、人名はNHKと映像輸入元による(一部当方で補足)

感想

ヴィクトリア女王生誕200年を記念してキャシー・マーストンがノーザン・バレエに振り付けた全幕作品。女王の五女で末娘のベアトリス王女が、病床の母に託された日記を読み、編纂しながらその人生を辿る、という形で話が進みます。ヴィクトリア女王の人生は様々に映画化ドラマ化されていますが、これは題材のおもしろさ、着眼点、わかりやすさ、優れた美術、そしてもちろん振付が語るものも含めて、よくできたバレエ作品でした。特に1幕が面白かったです。

胸震えるラブストーリーでも夢見心地のフェアリーテールでもないけれど、単なる一代記でもなく…全編を通じて描かれる母と娘の抑圧的関係性は現代に通じ、とてもリアルに感じられます。娘による日記編纂作業と、日記に記された母の人生とが多層的に描かれますが、よく交通整理されていてわかりやすいです。音楽も、バレエ音楽をよく手がけているフィリップ・フィーニーなので、とてもバランスがよいと感じました。


ヴィクトリア女王が娘に託した日記は13歳から亡くなるまでの70年間分141巻にのぼるそう。オンラインで公開(http://qvj.chadwyck.com/marketing.do)されたそうですが、現在は研究機関向けになっているみたいですね。ベアトリス女王によって編纂された部分のオリジナルは破棄されたとのことで(問題になりそうな部分もあったでしょうしね)、ヴィクトリア女王が書いたオリジナルはごく初期の数年分、13冊しか残っていないそうです。

1幕に、子供の頃から母に抑圧され傷ついてきたベアトリスが回想しながら日記を破りとる場面が何度も挿入されるのですが、その心情は見るこちらの胸にも重くのしかかってきます。母のオリジナルは赤い表紙、ベアトリスが編纂した抄本は青い表紙というのもわかりやすく、背後を埋め尽くされた真っ赤な背表紙(の日記)は、バレエに幕が降りる時には全て真っ青に入れ替わっていました。

その1幕で描かれるのは、ヴィクトリア女王の死と、ジョン・ブラウンとヴィクトリア女王の関係、母とベアトリス王女、ベアトリス自身の結婚と夫の死 といった彼女自身の記憶にもある時代の日記。時系列で振り返るのではなく、ベアトリスが母から受けていた抑圧を先に描いたことで、王室の、歴史の物語でありながら、自分の物語だと感じる人も多かったのでは。

現在のベアトリス(ピッパ・ムーア)と回想の中のベアトリス(芥実季)の対比が鮮やかで、特に若い頃のベアトリス役、芥実季さんは素直で伸びやかなムーヴメントが上品で清潔感があり、素晴らしい存在感を示していました。フレンチスリーブに膝丈の衣装は若さや素直さの象徴かもしれませんが、他の長袖ロングスカートのダンサーたちより四肢の表現力が際立っていたように感じます。夫の死により、母と同じ長袖ロングスカートの喪服を着せられることで、自分らしさというか自分の人生が覆われてしまった絶望感…。

第2幕はベアトリスの知らないヴィクトリアの若い頃。母であるケント公爵夫人とコンロイからの厳しい抑圧、即位、メル卿(伊藤陸久)への依存、最愛のアルバートとの結婚生活と執務、そして突然の別れ。1幕がベアトリス王女の伴侶の死、2幕がアルバートの死で終わる対比もまた、二人の人生を考えずにはいられないものでした。

2幕で描かれる内容の方が一般的には(映画やドラマで)知られている分、展開が早いと感じました。ヴィクトリア女王が母とコンロイから受けた抑圧を(娘へのそれと対比で)もう少し強めに描いてもよかった気がするけど、女王の長い在位時代を考えるとあれくらいが適当なのかな。こちらではベアトリス王女は傍観者となるので、1幕とは違って説明っぽさが増した印象も受けます。でもたぶん、これは私の現在のツボが1幕にあるというだけの事だと思うのですが。懐妊出産を繰り返すヴィクトリア女王が執務から手をひかざるをえずにアルバートが代行を務めるところなどなかなか息苦しいし、示唆的であるとも感じました。


キャシー・マーストンのことは、ロイヤル・バレエで新作が発表されるまでは、ローザンヌ国際バレエ・コンクールのコンテンポラリー・ヴァリエーションでしか見たことがありませんでした。動きはしっかりダンサーたちに馴染んでいるし、踊ることで感情や物語が伝わってくるので、とても入り込みやすい振付だと感じます。リフト系が面白い。ヴィクトリア女王の人生に疎くても、舞台の上で何が起こっているか分かりやすいと思いました(もちろん粗筋も表示されますし)。ストーリーテリングに優れているようなので、彼女が振り付けた他の物語バレエも是非見てみたいです。ロイヤル・バレエに振り付けた「ザ・チェリスト」(映画館中継、大丈夫かな…)やABTでも採用された「ジェーン・エア」など。ちなみに、ドラマトゥルクのUzma Hameedはマクレガー「ウルフ・ワークス」も手がけています。

ヴィクトリア女王という人が記号化された存在ということもあり(純白のウェディングドレスが世に広まるきっかけとなった人、夫の死後長い間喪服姿だったなど)衣装や小道具の記号化もクリアでした。ロングスカートでも(おそらく)軽い素材かつ適度なボリュームに見えて踊りやすそうだな、とも。あまり大きくない規模のカンパニーで上演するための工夫がたくさん施されているように見えたのも興味深い点でしたが、難点と言えるかどうか…少ない人数で回す分、1幕の主要登場人物が2幕でコール・ドにいたりするので、若干混乱するくらいかな。でも、それ以上に私には面白かったです。

なお、女王の日記について検索にひっかかったのですが、東京富士美術館にも1冊所蔵されているようです。え?そうなんだ…。

この作品については、ノーザン・バレエの作品特設ページが大変充実しているようです。私まだほとんど見てないのですが、これから楽しませていただこうと思っています。そしてノーザン・バレエは今回の新コロナ・ウィルスによる自宅隔離において、「Pay As You Feel Digital Season」を展開しています。いくつかオンラインで映像が見られたりしますので、ぜひ寄付をした上で楽しみましょう。


Official Trailer

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