Liam Scarlett’s Frankenstein / The Royal Ballet, 2019

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振付:リアム・スカーレット
出演:トリスタン・ダイヤー、サラ・ラム、平野亮一 ほか
収録:2019年3月15,23日 ロイヤル・オペラ・ハウス / 132分

録画

NHKプレミアムシアターで録画。わーい、ありがとうございますありがとうございます!6月と7月のプレミアムシアターはロイヤル・バレエ特集ですね!上演から3ヶ月のDVD/Blu-ray化されていないこのキャストが自宅のテレビで見られる幸せ。


クレジット

振付
リアム・スカーレット Liam Scarlett
音楽
ローウェル・リーバーマン Lowell Liebermann
美術
ジョン・マクファーレン John Macfarlane
照明
デーヴィッド・フィン David Finn
指揮
バリー・ワーズワース Barry Wordsworth
演奏
英国ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団 Orchestra of the Royal Opera House

キャスト

ヴィクター・フランケンシュタイン:トリスタン・ダイヤー Tristan Dyer
ヴィクターの幼少期:ジョー・パーキンソン
エリザベス・ラヴェンツァ(ヴィクターの恋人):サラ・ラム Sarah Lamb
エリザベスの幼少期:マルヴィナ・コルブ
アルフォンス・フランケンシュタイン(ヴィクターの父):ギャリー・エイヴィス Gary Avis
キャロライン・ボーフォール(ヴィクターの母):イツァール・メンディザバル Itziar Mendizabal
ウィリアム・フランケンシュタイン(ヴィクターの弟):ジョシュ・リディントン
マダム・モリッツ(家政婦):エリザベス・マクゴリアン Elizabeth McGorian
ジュスティーヌ・モリッツ(その娘):ロマニー・パジャック Romany Pajdak
ジュスティーヌの幼少期:マルガリータ・ピゴリーニ
ヘンリー・クラーヴァル(ヴィクターの友人):アクリ瑠嘉 Luca Acri
教授:ベネット・ガートサイド Bennet Gartside
怪物:平野亮一 Ryoichi Hirano

感想

DVD/Blu-ray化されたキャストと比べると、マクゴリアンさん以外の主要キャストは総入れ替えでしたね。とはいえマクゴリアンさんのマダム・モリッツも、より母の顔が強くなっているように思いますし、若手も多く、初演キャストとはまた趣が違って新鮮に楽しむことができました。

ダイヤーくんのヴィクターは真面目で苦悩派。神経質で、思いつめると周囲が見えなくなってしまうところに説得力がありました。エリザベスからも怪物からも愛を求められ続けるけれど、真正面から彼らに向かうことができない…彼自身も幸せになれないし、エリザベスも怪物もずっとさみしい。本当に誰一人幸せになれないお話だし、ヴィクターくん、君のそういうところだぞ、と。ヴィクターは禁を犯して怪物を作り上げてしまうけれど、それはヴィクター本人も気づかなかった、自身の内側に存在するモンスターだったのかもしれない。だから、彼は怪物ではなく自分に銃口を向けたのかな…。最後の最後まで向き合ってもらえなかった怪物が悲しすぎるけれど。

彼は美しいダンサーだけど、ハードなリフトが続くこの作品では後半のサポートがちょっと大変そうでした。とりわけ3幕でエリザベスと長いpddを踊ったあとで、身長の高い平野さんと組むとなると。平野さんもトリスタンに負担がかからないように踊ろうとするからタイミングを合わせようとしているのが見えてしまって、スリリングさには少し欠けたかもしれない。贅沢な望みだなとは思いつつ、でもどうせなら迫力あるpddが見たかったなーと。

サラ・ラムは艶やかなエリザベスでした。ラウラはヴィクターの愛を得てもなお自分がこの家の子ではない負い目のようなものが感じられたけど、サラはヴィクターへの愛でいっぱいで他のものが入る余地がない。一緒に育ったジュスティーヌ役のロマニーが飾りっ気のないさっぱりした様子なので、二人の境遇の違いが強調されているように感じました。変な言い方だけど、サラ・ラムのエリザベスは、愛する人を自分に執着させられなかったマノンなのでは、と思ってしまいました。最近彼女のマノン映像を見たばかりというのもあると思うけど、この作品自体「マノン」と近い時代の話だし、振付というか演出にもオマージュと感じられる場面がいくつかありましたしね。

前回の映像でも思ったのだけど、ヴィクター、エリザベス、ジュスティーヌが育っていく過程を描いたスピンアウトものが見てみたいです。マダム・モリッツ役のマクゴリアンさんは上にも書いたけど、以前の映像より少し母の顔が強くて、それだけに娘が処刑された時に悲しみが胸をつきました。ジュスティーヌとウィリアムの関係にも泣けてきますよね。ロマニー・パジャック(パイダク)、とてもよかったです。

クラーヴァル役の瑠嘉くんは特に前半がとても繊細な役作りで、視線1つでクラーヴァルのありようを表現してしまうのに舌を巻きました。他のダンサーたちと一緒に踊ると少し小柄なはずなのにラインが美しいし踊りも大きくて、誠実な性格が踊りからも見えるよう。酒場のシーンは痛々しかったけれど、2幕以降、フランケンシュタイン家でヴィクターやエリザベスに寄り添う姿は頼もしい。3幕の結婚式の場面、まるでアシュトン「シンデレラ」のワルツみたいだなーと思ったのですが、瑠嘉くんはシンデレラでいうところの道化のような自在さでゲストの合間を踊っていくのですが、とてもノーブルで美しく眼福でした。

そして平野さんの怪物。生まれた時から親=ヴィクターに疎まれ恐れられ、愛されたり抱擁されたりの記憶もない。それから7年間ひどい目にあいながらようやくたどり着いたフランケンシュタイン家でも、求めても求めてもヴィクターには受け入れられず、、という孤独と渇望と一転しての怒りとの表現に、こちらの心も震えました…。幸せそうな一家を影から眺めて、ダンスやお辞儀を見て覚えて。目隠しをしたウィリアムとの交流だけが唯一の幸せな時間だったのですよね。そんなウィリアムを簡単に殺してしまった自分の力に驚愕しながら、ヴィクターを自分の方に向かせる方法がそれしかわからない。哀しい哀しい役どころを熱演していました。ブラヴォー。

上にも少し触れましたが、「シンデレラ」や「マノン」へのオマージュっぽいところがいろいろあったのも面白かったです。リアムにしてもクリスにしても、ロイヤルに全幕つくるときは伝統を意識するのだな、というところにカンパニーの歴史の重さを感じるのでした。