Moving in three acts – A building site opera

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監督:アンネ・オステルロー
制作:2017年
https://www.cmajor-entertainment.com/movie/moving-in-three-acts-a-building-site-opera-a05550731/

録画

クラシカジャパンで放映されたベルリン州立歌劇場改修のドキュメンタリー。バレエについては彩りのようにほんの少ししか映らないのですが、とても味わい深いドキュメンタリーだったのでこちらでご紹介。


クレジット

監督
アンネ・オステルロー Anne Osterloh
コメント
アネッテ・ゲルラッハ Annette, Gerlach, プレゼンター
クリスティアーネ・パウル Christiane Paul, 女優
モニカ・グリュッターズ Monika Grutters, ドイツ連邦首相府文化メディア担当
ロランド・ビリャソン Rolando Villazon, テノール歌手
クリスティアーネ・ヤノット Christiane Janott, 衣装係 州立歌劇場で35年勤務
クリスティアン・ヤコービ Christian Jacobi, 小道具部部長 州立歌劇場で31年勤務
ウド・メッツナー Udo Metzner, 舞台監督 州立歌劇場で25年勤務
イングリッド・ヤロシェウスキー Ingrid Jaroszewski, 舞台監督助手 州立歌劇場で46年勤務
アルブレヒト・クリーガー Albrecht Krieger, 音響効果主任 州立歌劇場で23年勤務
アンナ・プロハスカ Anna Prohaska, ソプラノ歌手 州立歌劇場に11年在籍
アンドレアス・シュヴァルツ Andreas Schwarz, 大道具係 州立歌劇場で38年勤務
クラウス・シューニング Klaus Schuning, 運搬係 州立歌劇場で50年勤務
ダニエル・バレンボイム Daniel Baremboim, 音楽監督
ウヴェ・エンゲル Uwe Engel, 舞台清掃係 州立歌劇場で18年勤務
トーマス・トリッシュ Thomas Trisch, 舞台清掃係 州立歌劇場で37年勤務
ユルゲン・フリム Jurgen Flimm, 劇場総裁 州立歌劇場に7年間在任
マティアス・シュルツ Matthias Schulz, 2018年4月から劇場総裁
クラウス・パイマン Claus Peymann, 舞台演出家
マルティナ・ゲデック Martina Gedeck, 女優
オットー・レーハーゲル Otto Rehagel, サッカー指導者
マンフレッド・ネッシング Manfred Nessing, 管理センター主任 州立歌劇場で39年勤務
ライナー・ビーゼッケ Rainer Biesecke, 小道具係 州立歌劇場で37年勤務
ロルフ・ミュールハウゼン Rolf Muhlhausen, 照明技師 州立歌劇場で18年勤務
トーマス・ヨルダンス Thomas Jordans, ホルン奏者 州立歌劇場に19年在籍
バルバラ・グリュックスマン Barbara Glucksmann, ヴァイオリン奏者 州立歌劇場に12年在籍
イリス・ベルベン Iris Berben, 女優
抜粋収録
  • 「シモン・ボッカネグラ」 Simon Boccanegra

    作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ Giuseppe Verdi
    出演:プラシド・ドミンゴ Plácido Domingo

  • 「燃え立つ心」 Das Flammende Herz

    振付:パトリス・バール Patrice Bart
    音楽:フェリックス・メンデルスゾーン Felix Mendelssohn Bartholdy
    出演:ポリーナ・セミオノワ Polina Semionova
    ウラジーミル・マラーホフ Vladimir Malakhov

  • 「レ・シルフィード」 Les Sylphides #スタジオで

    ナディア・サイダコワ Nadja Saidakova
    ウラジーミル・マラーホフ

  • 交響曲「未完成」 Symphony in B Minor, D. 759 ”Unfinished”

    作曲:フランツ・シューベルト Franz Schubert
    指揮:ダニエル・バレンボイム Daniel Baremboim

  • 「魔笛」 Die Zauberflote

    作曲:W.A.モーツァルト Wolfgang Amadeus Mozart

  • 「ゲーテのファウストからの情景」 Zum Augenblicke Sagen: Verweile Doch! ”Scenes from Goethe's Faust”

    作曲:ロベルト・シューマン Robert Schumann
    詞:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ Johann Wolfgang von Goethe

  • 「ラ・ボエーム」 La Boheme

    作曲:ジャコモ・プッチーニ Giacomo Puccini

  • 「エフゲニー・オネーギン」 Eugene Onegin

    作曲:P.I.チャイコフスキー Pyotr Ilyich Tchaikovsky
    指揮:ダニエル・バレンボイム Daniel Baremboim
    出演:ロランド・ビリャソン Rolando Villazon

感想

ベルリン州立歌劇場の改修という巨大プロジェクトを、長年歌劇場で働いてきた裏方さんたちを主役に据えて撮ったドキュメンタリーです。原題「Moving in three acts – A building site opera」を見てわかる通り、監督はこれを裏方さん主演のオペラとして仕立てたのですね。どの登場人物も勤勉で自分の仕事に誇りを持ち、ユーモアとペーソスがあって劇場を深く愛している、というオペラ。

だから最後に、このドキュメンタリーに登場した裏方さんたちによるカーテンコールがあります。新しい歌劇場のカーテン前に出てきて手を繋いでお辞儀。新しい劇場のこけら落とし公演の後に流れるけど、恐らくはこの映像のための別撮りですよね。ここまで見てようやく、原題と構成の意味がわかったという…おとぼけの私(笑)。そして改修期間中に亡くなられてカーテンコールに登場できなかった方はお写真が最後に…。


映像は2009-10年の改修前最後のシーズン、工事中の2012年、そしてようやく完成した2017年に撮影されたものから構成されています。3年の予定が結局7年もかかった工事のドタバタや工期延長に翻弄される最中の様子は出てきません。歌劇場の舞台を飾ってきたスターたちのコメントもほとんどないし、音楽監督のバレンボイムや劇場総裁のコメントもほんの少しだけ。これは、劇場と共に生きてきた人たちのものだから。

そんなわけですからバレエ関係者のコメントもなく、映像もマラーホフとポリーナが舞台で踊る映像と、サイダコワとマラーホフがスタジオでリハーサルをするところ、そしてマラーホフが劇場内を通って自室に戻るところが映るくらい。サイダコワとマラーホフが良い関係なのが伝わってくるけど本当に断片。ただ、それを凌駕するほどの裏方さんたち一人一人が魅力的だったのでした。


一番印象的だったのは清掃係のトリッシュさんでしょうか。ある意味キーパーソンで、要所要所で彼の姿が映し出されるのです。彼自身は自分のことは語らず、ただ仕事に邁進するのみ。2012年の工事現場見学の際に、思い出のつまったあちこちをひたすらに見つめる様子、バレエダンサーが公演前の舞台で思い思いにウォームアップする横を「汚れた床を観客に見せるわけにはいかないから」と黙々とモップ掛けする姿。オペラ上演中の舞台袖で幕間の掃除のためにスタンバイする姿は、特等席で歌声に聞き惚れているようでもありました。2010年の改修前最後の野外ステージ公演で赤いTシャツ姿で舞台をデジカメで撮影する、仕事と離れてちょっとリラックスした素顔もあって、なんだかとても気になる存在に。

それぞれのスタッフが語る思い出話にはベルリンの壁崩壊当夜のこともあったし、壁崩壊直後の日本ツアーでバゲージダウンで廊下にスーツケースを出したら2分後には回収されていて、翌日別のホテルの部屋に入るとそのスーツケースが置いてあるんだ、別世界だねと笑う人もあり。統一から20年経過しても、運搬係には旧東ドイツ出身者しかいないし、年金も(旧東ドイツ時代の賃金をベースに計算されるので)西出身者と比べて大幅に安い、、などという未だに残る格差の話も。エピソードをすくい上げたら膨大になってしまうのでこの辺にしますが、きっと1時間のドキュメンタリーにまとめるために泣く泣くカットしたお話もこの何倍何十倍とあったハズ。

改修前最後の野外公演「エフゲニー・オネーギン」終演後のバレンボイムのスピーチ「古い劇場がなくなるのは悲しいでしょうね?と聞かれるけれど、美容整形すると思えばいいのです。シワがなくなるのは嬉しいでしょう?シワをなくして3年後にお会いしましょう!」というのが可笑しい。

ベルリン州立歌劇場というと上層部の話題を思い出しがちですが、敢えてスタッフに焦点を当てたこのドキュメンタリー、とてもよいものでした。