Iolanta / Casse-Noisette : Ballet de l’Opéra national de Paris

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振付:アーサー・ピタ、エドゥアール・ロック、シディ・ラルビ・シェルカウイ
出演:マリオン・バルボー、ステファン・ビュリオン 他
収録:2016年3月14,18日 パリ・オペラ座 ガルニエ宮 / 192分

録画

オペラとバレエを一晩に上演したパリ・オペラ座の公演がプレミアムシアターに登場。当初の予定より振付家が減ったり公演がストに当たってしまったりという困難の多さが、だいぶ趣の異なる「くるみ」である事の評判と共に話題になりました。

なおこの映像はBel Air Classiquesからリリースが予定されています。


クレジット

演出・装置
ドミートリ・チェルニャコフ Dmitri Tcherniakov
音楽
P.I.チャイコフスキー P.I. Tchaikovsky
衣装
エレナ・ザイツェヴァ Elena Zaitseva
照明
グレブ・フィルシティンスキー Gleb Filshtinsky
ビデオ
アンドレイ・ツェルニン Andrey Zelenin
指揮
アラン・アルティノグリュ Alain Altinoglu
演奏
パリ・オペラ座管弦楽団 Orchestre de l’Opera National de Paris
合唱
パリ・オペラ座合唱団・児童合唱団 Choeurs de l’Opera National de Paris, Choeurs d’enfants de l’Opera National de Paris
撮影監督
アンディ・ゾマー Andy Sommer

出演

歌劇「イオランタ」

イオランタ:ソーニャ・ヨンチェヴァ Sonya Yoncheva
レネ王:アレクサンドル・ツィムバリュク Alexander Tsymbalyuk
ボデモン:アルノルト・ルトコフスキ Arnold Rutkowski
ロベルト:アンドレイ・ジリホフスキー Andrei Jilihovsc
エブン・ハキア:ヴィート・プリアンテ Vito Priante
アリメリク:ロマン・シュラコフ Roman shulakov
ベルトラン:ゲンナジ・ベッツベンコフ Gennady Bezzubenkov
マルタ:エレナ・ザレンバ elena Zaremba
ブリギッタ:アンナ・パタロング anna Patalong
ラウラ:パオラ・ガルディーナ Paola Gardina

バレエ「くるみ割り人形」

振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ Sidi Larbi Cherkaoui
エドゥアール・ロック Edouard Lock
アーサー・ピタ Arthur Pita

マリー:マリオン・バルボー Marion Barbeau
ボデモン:ステファン・ビュリョン Stephane Bullion
ドロッセルマイヤー:ニコラ・ポール Nicolas Paul
マリーの父:オーレリアン・ウエット Aurelien Houette
マリーの母:アリス・ルナヴァン Alice Renavand
ロベルト:タケル・コスト Takeru Coste
マリーの妹:カロリーヌ・バンス Caroline Bance


感想

歌劇「イオランタ」と「くるみ割り人形」をどのように組み合わせて一夜のプログラムに仕立てるのだろうと思ったら、劇中劇なんですね。マリーの誕生に自宅サロンで「イオランタ」が上演されると形。

オペラ「イオランタ」は劇中劇であることを示すように、黒い額縁で囲まれたような、舞台の奥の限られた空間で上演されていました。オープニングの映像で舞台がその様に設えてあることがわかるのですが、最初に見た時はそのあたりはあまり意識していなくて、オペラからバレエへの転換の時に気づきました。オペラが終わって大道具が舞台奥に下げられ、手前のサロンが明るくなったところで、サロンの客と劇場の観客とが歌手に喝采。

歌手を招くくらい裕福なお家なのかなと思えば、どうやら家族やゲストによる出し物という設定なのかな。上演後に何度か繰り返される歌手への喝采で、最後に登場した時はイオランタ役のソーニャ・ヨンチェヴァ以外はバレエダンサーが歌手たちの衣装をつけていて「やれやれ終わった」といった体で衣装を脱いで、バレエの世界へ。(最後のアプローズの時も、メインキャストはオペラとバレエ呼応す役の人が同じオペラの衣装で一緒に出てきて、バレエダンサーがそれを脱いでバレエの衣装へ、という趣向がありました)


マリーの誕生パーティの場面はアーサー・ピタの振付。ダンサーたちはちょっとおめかし、といったワンピースやスーツ姿で靴もハイヒールだったり革靴だったり。マリーがみんなにもらった誕生日の贈り物を開けて見たり、ケーキのろうそくを吹き消すといった動作も、椅子取りゲームやダンスにこうじたり、くるみ割り人形の形をしたピニャータを叩き割るのも、彼らの(ダンス用出ない)靴の効果もあるのかミュージカルのワンシーンみたいでした。そんな中でちょっと不器用っぽいボデモン(ビュリョン)が、マリーへの好意を隠しきれずにいる所も視線を集めます。

一点の曇りもなく幸せな一家、のようだけど。イオランタが本人の預かり知らぬところで父の影響下で生きてきたように、マリーの母もまた、娘の人生に影響を与えたがっているようでした。それがあからさまになるのが深夜の広間。

上着を忘れて帰ったボデモンと余韻に浸るマリーが、夜の広間で鉢合わせして…そこから振付はエドゥアール・ロックに変わります。振付語彙が独特な人だから踊りだけ見ても振付家が変わったのは一目瞭然ですが、ライティングも独特で異次元ぽさが際立ちます。女王のように場を支配する母。アリス・ルナヴァンはこういう役が似合いますね。マリオン・バルボーが踊るエドゥアール・ロックもエネルギーに満ちていて、黄色いワンピースから伸びたすんなりした足のしなやかな軌道に見惚れました。クラシック・バレエ全幕の台本と違って、マリーはこの時点からボデモンと肉体的に関わろうとしていて。

このプロダクションのことはあまりよくわからないけど…オーソドックスな「くるみ割り人形」と同じで夜の広間からは彼女の夢だとしたら、この場の振り付けはロックこそふさわしいと感じました。母の支配と好きな人と触れたいキスをしたいという意識下にある彼女の本心が、もがきながら外に出ようとする瞬間、に見えたから。隕石が衝突して、みたいな場面転換は安易にも思えるけど、それも彼女の硬い殻を破る比喩としてわからないこともない…。


エドゥアール・ロックはその後も森の中をマリーが彷徨うシーンと続く捨てられたおもちゃたち(ボデモンとマリーの分身が出てくるところ)も担当。もがき苦しむ彼女の大人としての自我が出てくるまでの葛藤だからかな。マリーの分身である女性ダンサーが、ロック独特の痙攣したかのようなダンスで幼児遊び的に動くのが笑えたわ。そしてここでも女王たろうとする母の顔をしたマリーの分身。

夜の広間に爆発音がした後の瓦礫の場面はシェルカウイの振付ですよね。瀕死の女性と沼地で踊ったのはマクミランのマノンだったけど、こちらは男性が瀕死で瓦礫の中。リフトする側の男性が瀕死というのは振り付けるのも踊るのも難しいと思うけれど、シェルカウイの振り付けも踊るビュリオンも見事だったかと。生命の灯の強弱が見せるやるせなさもあって。

マリーの周囲でボデモンとマリーたちが踊りながら年をとっていく場面から後もシェルカウイですよね。映画「アンナ・カレーニナ」を思い出させるワルツ。その年代によって男女ペアの距離や踊りが変化していくのも興味深く。

そしてようやくボデモンと再会し、彼に全身を任せ喜びに溢れて踊るマリー。タンゴや愛と優しさに溢れたパ・ド・ドゥの美しいこと。そしてこれをみて、ピタとロックの振り付けも作品にカチッとハマった感覚がありました。最初の誕生日パーティから様々な場を経て、彼らが心の底から踊りたかったのはこれだったのだ、と。幻だったボデモンを嘆くマリーはジゼルのようでもあったけれど、それゆえにその後の彼女が愛の深さと強さを得たこともわかる、気がしました。

このプロダクションほどあからさまに、彼女が夢で得たものと目覚めたあとの強さ、もう少女時代の彼女ではない、と訴えかける「くるみ割り人形」はなかった気がします。「くるみ割り人形」の音楽にあっていたかは何とも言えないところだし、万人におすすめできる訳ではないけれど……でもでも、すごく面白かったです。