Sylvia / The National Ballet of Japan

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振付:デヴィッド・ビントレー
出演:小野絢子、福岡雄大 他
収録:2012年11月1日 新国立劇場 / 102分

録画

NHK BSプレミアムで放映されたものを録画。公演の評判がとてもよかったので、映像で見られた事に感謝です。


クレジット

音楽
レオ・ドリーブ Leo Delibes
振付
デヴィッド・ビントレー David Bintley
美術
スー・ブレイン Sue Blane
照明
マーク・ジョナサン Mark Jonathan
指揮
ポール・マーフィー Paul Murphy
管弦楽
東京フィルハーモニー交響楽団 Tokyo Philharmonic Orchestra

キャスト

家庭教師 / シルヴィア
小野絢子
召し使い / アミンタ
福岡雄大
伯爵夫人 / ダイアナ
湯川麻美子
伯爵 / オライオン
古川和則
庭師 / エロス
吉本泰久

ゴグ
福田圭吾
マゴグ
八幡顕光
ネプチューン
細田千晶
マーズ
長田佳世
アポロ
さいとう美帆
ジュピター
寺田亜沙子

感想

ビントレー版の「シルヴィア」は現代と神話の世界が入れ子になっていて、夫婦関係の冷え切った伯爵夫妻、想い合ってはいるものの先に踏み込めない家庭教師と召使いの2組の男女を、庭師であるエロスが神話世界へ誘う…というもの。

ハードな振付のオンパレードながら、ビントレーの薫陶を受けたダンサーたちがビシビシ踊っていくのが頼もしく、見ていてワクワクしました。特にあの勇壮な曲でディアナ軍団が刻むポワントワークはみとれてしまうかっこよさ。よく揃った踊りが、ディアナに仕えるニンフたちの純潔と忠心をも表しているよう。新国の女性陣にディアナ軍団がよくお似合いでしたよね。

この作品を踊れるだけのスタミナとテクニックのあるカンパニーを誇りに思う一方で、作品の性格上仕方のない事だけど意外に出演者が少なく回せちゃうのがもったいないような気も。かといって出演者を増やす為だけに手を入れるのは違うと思うので、これでいいとは思うのです。男性が少なくてもこれだけ迫力ある作品が出来ちゃうのも凄い事です。

見ていてクスリと笑ってしまう振付もそこここに。例えばバランシン「放蕩息子」みたいな2幕のゴグとマゴグ(八幡さんと福田さん怪演)。3幕の海賊たちの踊りはローズアダージオへのオマージュ的なものがあったし、義足の親方(ジョン・シルバーみたいな吉本さん凄すぎる!)がピストルを打ち鳴らすのはバレエ「海賊」にもあるシーン。奴隷の女性達が、見ようによっては「ラ・バヤデール」的でもあり。神話の神たちも女性が演じるのが面白いわーと思っていたら、アポロの踊り終わりに、あのバランシンのポーズが出てきたり。


ただ、たぶん劇場で見ずに映像だけで見たからだと思うのですが、主要な登場人物が紡ぐ物語は受け取りにくかったかも。やっぱり劇場で見ないと受け取る情報量が全然違うんですよね…。映像で見た範囲では、踊る事イコール役の感情となるタイプの振付ではないみたいだなーと思いながら見ていました。だからこそ感情面が関係しない踊りが余計に楽しめた、とも言えますけれど。

踊りや演技の完成度は舞台を踏んだ分だけ更に高まるでしょうから、再演の折にはぜひとも劇場に足を運んで観たいものです。


個人的には、バレエ「シルヴィア」のメインストーリーであり現代でも神話世界でも同じ個性で存在するシルヴィアとアミンタより、現代で愛の冷めた伯爵夫妻だったディアナとオライオンのありように興味を持っていました。ディアナは現実世界では夫の愛を渇望する妻ながら、神話世界では男嫌いで激しい気性。純潔な乙女だけを周辺に置く狩りの女神です。オライオンは浮気性の伯爵であり、好色で粗暴な狩人。このカップルの神話世界での役割は、現実世界と相互に因果があるようにも思えて興味深いところです。

古川さんの伯爵は予想以上にしょうもない男で(笑)伯爵さまなら妻を疎んじるにしても もう少しやりようがあるだろうと思っていたのですが、神話世界では神ではなく粗暴な狩人らしく(好色なところだけ神話のオリオンと一緒・笑)ならば潔癖な妻に窮屈さを感じて浮気を繰り返すのもわからなくもないか、、とも。最初に伯爵を見た時だけは降板前の山本さんだったら…と思ってしまったのですが、お許し下され。山本さんのファンなので彼で見たかった気持ちもありますが、神話世界の古川さんを見たら納得のキャスティングでしたわ。

小野さんのシルヴィアが踊るところを見ていると、アシュトンを踊る都さんが透けて見えるような気がするところがいくつもありました。この作品の初演が都さんだから彼女のフットプリントが残るのは当然のことだし、ビントレーにもアシュトンの影響があるでしょうしね。もちろんそんなことはこちらが勝手に思う事であって、彼女らしい健気で愛らしいシルヴィアは素晴らしかったです。侵入者であるアミンタを責めるキリリとしたところも素敵。

福岡さんも湯川さんもエロス役の吉本さんも、それぞれに役に合っていて流石でした。更にはネプチューン/マーズ/アポロ/ジュピターを踊った細田さん、長田さん、さいとうさん、寺田さんがとてもよかった。細田さん注目株ですね。

3幕で海賊たちが登場するのは唐突に感じたのですが(ディアナに奴隷を売りつけに来るっていうのも凄い話だし)、1幕でパーティの招待客の男性陣が仮装するのが海賊なのですね。女性陣はニンフではなく奴隷になっちゃう訳ですが…。あと少し交通整理すると更に面白い話になりそうではありますが、「シルヴィア」というバレエをこれだけ面白くしただけでもビントレーさん流石、とも言えるかしら。

ところで、こちらの伯爵さまはグイッチオーリ伯爵とおっしゃるんですよね。グイッチオーリといえばバイロンの最愛の愛人が思い浮かびますが…はっ、それと「海賊」がリンクしているとか?